人と話すこと

電車に乗っている時のことでした。

少し離れた優先席におばあさんが一人で乗っていました。ある駅から、おじいさんが乗り込んできて、お向かいに座りました。のどかな休日で、窓の外には緑の木々の景色が広がっています。そのうちおじいさんは、見ず知らずのお向かいのおばあさんに「この辺りは緑が多いですなぁ」と話しかけ始めました。

しばらく当たり障りのない会話が続き、聞き流していました。そのうちおじいさんが降りる駅がきたようです。おばあさんに向かって「話してくれてありがとう。一日中誰とも話さない生活なので楽しかった」とお礼を伝えて降りて行きました。

人と話すことって、本当に大切なことです。どんなに人が嫌いな人でも、コミュニケーションが苦手な人でも、人と話すことは生きる上で必要不可欠なことなのです。

それは、他者との繋がりを感じ、社会に帰属することを感じ、誰かに認められ、受け入れられていることを感じ、自分の位置を確認することでもあります。

不登校になってしまった思春期の女の子を、心配したお友だちが「お茶でも飲も」と誘って半日お喋りしたら学校に行かれるようになった、という話を何人かから聞いたことがあります。

人は話すことで心が軽くなります。人に話しを聞いてもらっただけで元気が出たり落ち着いたりした経験は誰しもあると思います。心の中にあるネガティブなものを、「話す」=「言語化する」ことで安心感を得られる、そのことを心理学では「カタルシス効果」といいます。

カタルシスとは、ギリシャ語で「浄化」という意味です。

他愛のないような話でも、他者との交流によって得られるカタルシス効果は、わたしたちの心をポジティブに保つために必要不可欠なものなのですね。